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東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)172号 判決

事実及び理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、同二(本件考案の要旨)、同三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1(一)  成立に争いのない甲第二号証によれば、本件考案は、流体管継手における管の逸脱防止装置に関するものであるが、従来、流体管継手として、接続管の先端縁に設けた膨隆管部の内側に、押込み管の先端縁が挿し込まれ、その接続管と押込み管との連結嵌合部にゴムパツキング環が嵌め込まれていて、そのゴムパツキング環には、押込み管の外側に遊嵌し、ねじ杆で接続管の膨隆管部の鍔縁と管軸長方向に螺締緊結させた押輪の内側突縁が圧接されたものが一般に知られているが、このようにゴムパツキングを押し付けるだけでは、管内の水圧が高くなり、また、外力が加わると、その継手が弛緩し、離脱し易い欠点があつた(本件公報の第二欄第三三行ないし第三欄第七行)ので、この欠点を除くために、押輪の外周に数個所の膨隆管部を一体に成型するとともに、該膨隆管部に、頂部に傾斜面を有する凹陥部を穿設して楔駒片を収容し、該楔駒片は、その頂部に同じく傾斜面を設け、下部に鋸山状の係止部を並設し、該膨隆管部の頂部に押ねじ杆を螺合して、該押ねじ杆の頭部の周縁で楔駒片の頂部の傾斜面を押圧させて管の逸脱防止をさせるようにした流体管継手も公知であるが、この公知の構造のものでも、押ねじ杆の頭部の周縁による楔駒片の頂部の傾斜面の押圧が不安定で円滑に作動しないおそれがある(同第三欄第八行ないし第二六行)との知見に基づき、前記の欠点を除くことを目的として、本件考案の構成要件(イ)、(ロ)、(ハ)及び(ニ)を採択し、この構成によつて挿込み管5が管内水圧又は外力によつて接続管から抜け出す方向に移動すると、楔駒片7も挿込み管5に圧接されたまま押輪1の突縁2の内側面の傾斜縮少部に移動されることになるため、楔駒片7の尖突縁6は、更に深く挿込み管5の外面に喰込み、挿込み管5の逸脱防止作用を抜出し力の増大に応じて自動的に強化する(同第四欄第一一行ないし第一七行)という作用効果を奏するものと認められる。

これに対し、成立に争いのない甲第四号証によれば、第一引用例記載のものは、承口管の接続部に用いる管接手に係るものであり、簡単な構成と容易な操作とにより強固にして安定した接続部を取得することを目的とし(第一欄第一八行ないし第二一行)、押環1の外周に数個所の膨出部1aを一体にて成型するとともに、数個所の膨出部1aに、それぞれその頂部に傾斜部を有するU陥部2を穿設して押子3を収容し、該押子3は、その頂部に同じく傾斜部を設け、さらに下部に鋸山状の系止部3aを並設し、前記膨出部1aの頂部に押ネジ4を螺合して押子3を押圧して成る管接手(第二欄第二六行ないし第三二行)の構成を採択したものであつて、第一引用例には、別紙図面(二)第1図ないし第3図に図示された実施例として、膨出部1aの内側周に直管5の先端縁に向けて拡開したU陥部2の頂部の傾斜部を設け、また、外側に、U陥部2の頂部の傾斜部と平行する押子3の頂部の傾斜部を設け、内側には、直管5の外周面に喰込む鋸山状の系止部3aを、多数条、直管5の管軸線と直交する方向にその幅の全面に設けた押子3が膨出部1aの内側に嵌装された構成が記載されていることが認められる。

以上の認定事実に基づき、本件考案(前者)と第一引用例記載のもの(後者)とを対比すると、前者の膨出傾斜突縁2は後者の膨出部1aに、前者の挿込み管5は後者の直管5に、前者の傾斜平坦面3は後者のU陥部2の頂部の傾斜部に、前者の外側傾斜平坦面4は後者の押子3の頂部の傾斜部に、前者の尖突縁6は後者の系止部3aに、前者の楔駒片7は後者の押子3にそれぞれ相当することが明らかである。もつとも、前掲甲第二号証によれば、本件明細書の考案の詳細な説明及び別紙図面(一)第2図、第5図に実施例として示された尖突縁6は、楔駒片7の下部の両端に二個設けたものであることが認められ、第一引用例記載のものの鋸山状の系止部3aと相違するが、本件考案が要旨とする尖突縁6の形状には限定がなく、第一引用例記載のものの鋸山状の系止部3aも本件考案の尖突縁6と同じく管軸線と直交する方向で直管5の外周面に喰込むものであるから、本件考案の尖突縁6に含まれるものである。

したがつて、第一引用例記載のものは、本件考案の構成要件(イ)、(ロ)を具備する(このことは、当事者間に争いがない)ほか、構成要件(ハ)の「その膨出傾斜突縁2、2……の内側周に、夫々、前記挿込み管5の先端縁に向けて拡開した傾斜平坦面3が設けられ、また、外側に、前記内側傾斜平坦面3と平行する外側傾斜平坦面4を設け、内側には、内部の挿込み管5の外周面に喰込む尖突縁6、6を管軸線と直交する方向に設けた楔駒片7が各傾斜突縁2の内側に嵌装され」る構成をも具備するものである。

なお、前掲甲第四号証によれば、第一引用例には押子3が押環1の一直径線を堺として一側方の各膨出部1aの内側に嵌装される構成についての明示的な記載はないが、前掲甲第二号証によれば、本件考案において楔駒片7が「前記押輪1の一直径線A―Aを堺とした一側方の各傾斜突縁2の内側に嵌装される」ことの技術的意義は、一側方の各楔駒片7の外側傾斜平坦面4には、前記押輪1の傾斜突縁2にその内側傾斜平坦面3に直交してねじ込まれた押ねじ杆8の先端の平坦面9を圧接させ、他の残りの楔駒片7には押ねじ杆8を作用させないようにすることができるので、一側方の押ねじ杆8を締め付けることによつて、楔駒片7を挿込み管5に強く押し付けて押輪1を引き上げ、これにより、右押ねじ杆8と相対する側(反対側)の楔駒片が挿込み管5に強圧されることとなつて、接合部の管の逸脱が防止されるとともに、押ねじ杆8の数を少くすることができることにある(本件公報の第四欄第一八行ないし第二九行)ことが認められるから、第一引用例記載のものも前記認定の構成を具備するものである以上、右のような構成とすることは単なる設計的事項にすぎないというべきである。したがつて、第一引用例に前記明示的な記載がない点は第一引用例記載のものが本件考案の構成要件(ハ)を具備するものであるとの判断を左右するものではない。

被告は、第一引用例の別紙図面(二)第1図、第2図は、系止部3aについて、その断面形状が三角形に連続した山型であることと、系止部3aの一つの鋸刃が押子3の全幅にわたつていること以外は具体的な形を示していないから、第一引用例記載のものは、本件考案の構成要件(ハ)におけるように系止部3aの長さ方向が直管5の軸線と直交していることを示すものではない旨主張する。

しかしながら、前掲甲第二号証によれば、本件考案において「内部の挿込み管5の外周面に喰込む尖突縁6、6を管軸線と直交する方向に設けた楔駒片7が傾斜突縁2の内側に嵌装され」ることの技術的意義は、楔駒片7の尖突縁6を挿込み管5の管軸線と直交する方向に、その外周面に喰込むように設けることによつて、前記認定の逸脱防止作用を奏することにあり、仮に尖突縁6が挿込み管5の管軸線に対して直交する方向に設けられていない場合(尖突縁6、6が、別紙図面~第2図において左下方に、同第3図において左上方にそれぞれ傾斜している場合)、挿込み管5の外周面と尖突縁6との間で歯止めがかからないため滑りが生じ易くなり、前記認定の管逸脱防止作用を奏するという所期の目的を達成することができないことが認められるところ、前掲甲第四号証によれば、第一引用例記載のものも、系止部3aは直管5の外周壁に喰込むことにより直管5の管軸心方向のすべりを防止するものと認められるから、鋸山状の系止部3aの先端は当然に管軸線に直交する方向に直管5の外周壁に喰込む構成のものと解するのが相当であつて、被告の前記主張は理由がない。

また、被告は、第一引用例記載のものは、第一段階の滑り防止と第二段階の滑り防止効果を意図するものである点において本件考案とは技術的思想を異にする旨主張する。

前掲甲第四号証によれば、第一引用例には、前記認定の構成により、押ネジ4を回動下降させると押ネジ4の先端は押子3の傾斜部を押圧して押子3を下圧し、その下部に並設した系止部3aは直管5の外周壁に喰込むので直管5の管軸心方向の滑りは完全に防止され、次いで、接続後において瞬間的に直管5の軸心方向の力が作用しても押子3の頂部の傾斜部は押環1のU陥部2の傾斜部と接触して押子3の鋸山状の系止部3aが直管5の外周壁に喰込み二重に滑りを防止抑制する(第二欄第五行ないし第一四行)ものと記載されていることが認められるから、第一引用例記載のものは、被告主張の第一段階及び第二段階の滑り防止効果を意図するものということができるが、本件考案も第一引用例記載のものも、流体管継手における従来技術の欠点を除いて挿込み管(直管)が接続管から抜け出すことを防止するために、前記構成を採択した点において基本的な技術的思想を共通するものであつて、第一引用例記載のものが二段階の滑り防止効果を意図するものだからといつて本件考案と技術的思想を異にするということはできない。

また、被告は、第一引用例記載のものは、二段階の滑り防止効果を意図するものであつても、第一段階において押子3の頂部の傾斜部とU陥部2の頂部とが常時当接するものではなく、この両者の間に間隙があるので、第二段階の滑り防止効果が十分でなく、また、押子3の頂部の傾斜部は、押ネジ4の頭部の周縁で押圧するので、その押圧は不安定であり、本件考案の構成要件(ニ)における楔駒片7の外側傾斜平坦面4と押ねじ杆8の先端の平坦面9の全面とが押し付けられる構成と、構成要件(ハ)における挿込み管5の外周面に喰込む尖突縁6、6を管軸線と直交する方向に楔駒片7を設けた構成により奏するような常時の連続的円滑な楔効果を奏することができない旨主張する。

しかしながら、本件考案において楔駒片7の外側傾斜平坦面4が押ねじ杆8の先端の平坦面9と常に完全に当接する構成は、本件考案の構成要件(ニ)に関するものであつて、構成要件(ハ)に関するものではなく、被告が第一引用例記載のものについて押子3の頂部の傾斜部とU陥部2の頂部の傾斜部との当接関係について主張するところも第一引用例記載のものが構成要件(ニ)を具備しないことについての主張に帰する(この点については、後記2において判断する。)から、被告主張の作用効果の差異をもつて、第一引用例記載のものが本件考案の構成要件(ハ)を具備しないことを理由づけることはできない。

以上の理由により、第一引用例記載のものは、本件考案の構成要件(ハ)を具備するものというべきである。

(二)  被告は、第一引用例記載のものは、本件考案の構成要件(ニ)を具備していない旨主張し、これに対し、原告は、審決は第一引用例には右構成要件が記載されていると認定したのであるから、この認定に反する主張は許されない旨主張する。

ところで、実用新案登録が実用新案法第三条第二項の規定に違反してなされたことを理由とする登録無効の審判請求(同法第三七条第一項第一号)に対し、当該考案が当業者において同法第三条第一項各号に掲げる考案(以下「公知考案」という。)に基づいてきわめて容易に考案をすることができたものであること(実用新案登録障害事由)は認められないとして請求を排斥した審決の取消訴訟においては、原告は、審決を違法としてその取消しを求める請求を理由付けるため、右実用新案登録障害事由の存在を主張し、これに対し、被告は、原告の主張事実を全面的に認めるものでない以上、原告主張の実用新案登録障害事由は存在せず、原告の請求は理由がないゆえんを原告の主張事実に対する認否及び反論として陳述するというのが、この種の訴訟における当事者の主張の基本的な形である。そして、被告が具体的にどのように認否、反論するかは、もとより被告が自主的に決定し得るとするのが訴訟当事者に保障された攻撃防御方法の提出権能のあり方であるから、たとえ審決がその理由中で原告(請求人)引用の公知考案が登録考案の構成要件の一部を具備することを肯認していたとしても、被告が審決取消訴訟においてこの点を否認し、公知考案は登録考案の構成要件の当該一部を具備していない旨陳述することは、それが審判手続における被告(被請求人)の陳述内容、審判及び訴訟手続の経過等に照らし禁反言の法理に触れるとみるべき特段の事情が認められない限り、前記攻撃防御方法の提出権能の範囲に属するものとして許容されるべきである。このことは、原告が審決取消訴訟に至つて、審決がその判断の論理的前提とし、ないしは理由中で実質的に判断した公知考案と登録考案の非同一性の点を争い、登録考案の構成要件は審決が肯認した部分のみならず、その全部が公知考案に具備されているとして、審決の認定を承けて主張を組み立てているとしても、その理を異にしないものというべきである。

これを本件についてみると、当事者間に争いのない前記審決の理由の要点及び前示事実欄に摘示した当事者の主張関係によれば、原告は審判手続においては、本件考案は当業者が第一、第二引用例記載のもの(及び審判手続における甲第二、第三、第五号証刊行物記載のもの)に基づいてきわめて容易に考案をすることができたものと主張したが、審決は、その理由中において、第一引用例には本件考案の構成要件(イ)、(ロ)及び(ニ)について記載されているが、(ハ)について記載されていないと認定し、さらに第二引用例(及び審判手続における甲第二、第三、第五号証刊行物)の記載内容を検討しても、右(ハ)の点は記載もなく、示唆もされていないとし、したがつて、本件考案は第一、第二引用例(及び右各刊行物)に記載されたものから当業者がきわめて容易に考案することができたものとすることはできないと判断したこと、本訴において、原告は、登録考案と第一引用例記載のものとの非同一性を争い、本件考案の構成要件のうち審決が肯認した(イ)、(ロ)、(ニ)のみならず、(ハ)も第一引用例記載のものに具備されており、本件考案は第一引用例記載のものと同一であるとして、(イ)、(ロ)、(ニ)に関する審決の認定を受けてその主張を組み立てているものであり、これに対し、被告は、第一引用例記載のものは、本件考案の構成要件(イ)、(ロ)を具備していることは認めるが、構成要件(ハ)のほかに(ニ)も具備していないと主張しているものであることが明らかであるところ、第一引用例には本件考案の構成要件(ニ)が記載されていないとする被告の主張は審決の認定に反するものであるが、右主張は、それを前提として、結局本件考案は第一引用例及び第二引用例に記載されたものから、当業者がきわめて容易に考案することができず、したがつて、原告の本訴請求は理由がないとする趣旨に解され、被告が右のような主張をすることが許容されないとすべき前説示の特段の事情も認められない。そして、被告の右主張の中には、第一引用例記載のものが本件考案の構成要件(ハ)、(ニ)を具備しないことを指摘して、本件考案と第一引用例記載のものとが同一であるとする原告の主張に反論する意味合いの主張が包含されているとみられるから、被告は後者の主張について裁判所の判断を求めることができるというべきである。

そこで、本件考案の構成要件(ニ)が第一引用例に記載されているかについて検討すると、前掲甲第四号証によれば、第一引用例記載のものは、押子3の頂部の傾斜部に係着(その態様は後述する。)する面を先端縁に設け、頭部に回動頭部を有する押ネジ4が、膨出部1aに直交してねじ付けられ、その押子3の頂部の傾斜部に、前記押子ネジ4の先端縁の一端が押し付けられ、その他端と押子3の頂部の傾斜部との間には僅かの間隙を有する管の逸脱防止装置であることが認められ、この構成を本件考案の構成要件(ニ)と対比すると、第一引用例記載のものは、押子3の頂部の傾斜部に係着する面を先端縁に設け、頭部に回動頭部を有する押ネジ4が、膨出部1aに直交してねじ付けられる構成の管の逸脱防止装置である点で、「その楔駒片7の外側傾斜平坦面4に係着する平坦面9を先端縁に設け、頭部に回動頭部14を有する押ねじ杆8が、前記膨出傾斜突縁2に直交してねじ付けられる」構成の「管の逸脱防止装置」である本件考案と一致しているが、押子3の頂部の傾斜部に前記押ネジ4の先端縁の一端のみが押し付けられ、本件考案における「その楔駒片7の外側傾斜平坦面4に、前記押ねじ杆8の先端の平坦面9の全面が押付けられて成る」構成を有しない点で本件考案と相違するというべきである。

(三)  前記(一)(二)で説示したとおり、第一引用例記載のものは本件考案の構成要件(イ)、(ロ)及び(ハ)を具備しているが、(ニ)の一部を具備していないから、第一引用例記載のものは本件考案の構成要件の全部を具備し、本件考案と同一であるとする原告の主張は理由がないというべきである。

2  原告は、仮に、第一引用例記載のものが本件考案の構成要件(ニ)を具備しないとしても、第二引用例には、右構成要件(ニ)を具備しているものが記載されており、本件考案は第一引用例記載のものに第二引用例記載のものを適用することにより当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである旨主張する。

成立に争いのない甲第七号証によれば、第二引用例記載のものは、椅子の座等を上下調整する機構に関するものであつて、一般に、上下動調整装置は、別紙図面(三)第2図に図示するように、垂直な軸管1内へ側部要所にテーパー溝2を縦設した摺動杆3を挿入して軸管1の側部から螺入した調整ねじ4の先端をテーパー溝2内へ係合させることにより所望の高さで摺動杆3を止めるようにしてあるが、テーパー溝2には調整ねじ4の先端上縁のみが係合して摺動杆3を制止しているため、摺動杆3をしつかり止めておくには、調整ねじ4をよほどきつく締めなければならず、また、調整ねじ4をきつく締めると、その先端上縁部がテーパー溝2の内底へ喰込んでテーパー溝2を傷つけることが多く、この欠点を除くため調整ねじ4の先端を円頭にすると、その先端とテーパー溝2とが点接触するため摺動杆3に対する制止力が弱くなるという知見に基づき、右欠点を除去することを目的として、「側部要所に縦のテーパー溝5を有する摺動杆6を挿入した軸管7の要所へ、摺動杆6における前記テーパー溝5に対して直角になるよう適宜傾斜せしめて調整ねじ8を螺通せしめてなる上下動調整装置との構成を採択したものであり、別紙図面(三)第1図に図示された実施例として、摺動杆6の傾斜平坦面に形成されたテーパー溝5に直交して調整ねじ8の先端部8′の平坦面の全面がテーパー溝5の内底部へ当接係合されて成る椅子の上下動調整装置の構成が記載されていることが認められる。

前記認定事実によれば、第二引用例記載のものは、摺動杆6の傾斜平坦面に形成されたテーパー溝5に直交して、調整ねじ8の先端の平坦面の全面がテーパー溝5の内底部に押し付けられて成る構成を有するものであり、第二引用例記載のものにおける摺動杆6、調整ねじ8は、本件考案の楔駒片7、押ねじ杆8にそれぞれ対応するものと認められる。

そして、第二引用例記載のものは、椅子の上下動調整装置であるから、家具類の産業分野に属するものであるが、第二引用例記載のものが有する前記構成は、種々の機械、器具その他すべての構造物の機械的構成の要素として広く利用され得る固着技術として汎用性を有するものであり、家具類の産業分野にのみ利用されるものではないから、管の継手に関する技術分野の当業者がこの固着技術に着目して、本件考案の構成要件(イ)、(ロ)、(ハ)及び(ニ)のうちの「その楔駒片7の外側傾斜平坦面4に係着する平坦面9を先端縁に設け、頭部に回動頭部14を有する押ねじ杆8が、前記膨出傾斜突縁2に直交してねじ付けられる」構成を有する第一引用例記載のものに、その押子3の頂部の傾斜部に押ネジ4の先端縁の一端のみが押し付けられるにすぎないことにより管の逸脱に対する制止力が弱い欠点を除くため、第二引用例記載のものにおける固着技術を適用し、押子3の頂部の傾斜部に対して直角になるよう適宜傾斜せしめて押ネジ4の先端の平坦面の全面が押し付けられるように構成して本件考案を得ることは、当業者においてきわめて容易に想到し得ることというべきである。

これに対し、被告は、第二引用例記載のものは、椅子の座などを上下調整する機構に関するものであつて、流体管継手における管の逸脱防止装置に関する本件考案とは対象物品を全く異にしている旨主張するが、第二引用例記載のものにおける固着技術は機械的構成の要素として広く利用され得るものであることは前述のとおりであるから、本件考案と対象物品を異にすることが第一引用例記載のものに第二引用例記載のものにおける右固着技術を適用することを困難とするものではないと認めるべきであつて、被告の右主張は理由がない。

また、被告は、第二引用例記載のものは、本件考案とはその目的を異にする旨主張するが、第二引用例記載のものは、従来技術(別紙図面(三)第2図)において調整ねじ4の先端がテーパー溝2と点接触するため摺動杆3に対する制止力が弱くなるという欠点があつたのを除くことをも目的として、摺動杆6の傾斜平坦面に形成されたテーパー溝5に直交して、調整ねじ8の先端の平坦面の全面がテーパー溝5の内底部に押し付けられて成る構成を採択したものであるから、この固着技術を管の逸脱防止のための制止力を増強することを目的として第一引用例記載のものに適用することに格別の困難があるとすることはできない。

さらに、被告は、本件考案は、構成要件(ニ)と(ハ)とを組み合わせることにより、楔駒片7の傾斜平坦面4は、押ねじ杆8の先端の傾斜平坦面9の全面に常に接触しながらこれらの面に沿つて滑らかに移動し、両傾斜平坦面9、4が常に完全に当接し、かつ、尖突縁6、6と挿込み管5の表面との間の摩擦係止力を順次確実に増大させ、常に連続的な円滑な楔作用により抜出しを完全に防止するという作用効果を奏するものであつて、このような作用効果を奏しない第二引用例記載のものを第一引用例記載のものに適用しても本件考案を得ることができない旨主張する。

本件考案の奏する作用効果は前記1(一)認定のとおりであるから、これを機能的にみて被告主張のように表現しても妨げなく、また、この作用効果は主として構成要件(ニ)と(ハ)とを組み合わせたことによることも被告主張のとおりである。

しかしながら、第一引用例記載のものは、流体管継手における従来技術の欠点を除いて挿込み管5(直管5)が接続管から抜け出すことを防止するために前記認定の構成を採択した点において本件考案と基本的な技術的思想を共通にすることは前述のとおりであり、この第一引用例記載のものに、その押子3の頂部の傾斜部に押ネジ4の先端縁の一端のみが押し付けられる構成に代えて、第二引用例記載のものにおける固着技術を採択し押子3の頂部の傾斜部に対して直角になるように適宜傾斜せしめて押ネジ4の先端の平坦面の全面が押し付けられる構成にするならば、押子3の頂部の傾斜部は押ネジ4の先端の傾斜平坦面の全平坦面に常に接触しながらこれらの面に沿つて滑らかに移動し、両傾斜平坦面が常に完全に当接し、かつ系止部3aと直管5の表面との間の摩擦係止力を順次確実に増大させ、常に連続的円滑な楔作用により抜出しを完全に防止するという作用効果を奏することができるものと認められるから、結局、本件考案の奏する作用効果は第一引用例記載のものに第二引用例記載のものを適用することにより通常予測し得る範囲のものにすぎない。

3  以上のとおりであつて、本件考案は第一引用例記載のものに第二引用例記載のものの固着技術を適用することにより当業者がきわめて容易に考案することができたものであるから、本件考案は第一、第二引用例(及び審判手続における甲第二、第三、第五号証刊行物)に記載されたものから当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとすることはできないとした審決の判断は誤りであつて、その誤りは請求人(原告)が主張している理由及び提出した証拠方法によつては本件実用新案登録を無効とすることはできないとした審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

三  よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容することとする。

〔編註その一〕本件考案の要旨は左のとおりである。

(イ)  接続管10の先端縁に設けた膨隆管部の内側に、挿込み管5の先端縁が挿込まれ、その接続管10と挿込み管5との連結嵌合部にゴムパツキング環11が嵌込まれていて、そのゴムパツキング環11には、挿込み管5の外側に遊嵌し、ねじ杆13にて接続管10の膨隆部の端縁の鍔縁12と管軸長方向に螺締緊結させた押輪1の内側突縁が圧接されている流体管継手において、

(ロ)  前記押輪1の外側周に、挿込み管5の管軸線方向に対して、先端が狭搾した複数個所の膨出傾斜突縁2、2……が突設され、

(ハ)  その膨出傾斜突縁2、2……の内側周に、夫々、前記挿込み管5の先端縁に向けて拡開した傾斜平坦面3が設けられ、また、外側に、前記内側傾斜平坦面3と平行する外側傾斜平坦面4を設け、内側には、内部の挿込み管5の外周面に喰込む尖突縁6、6を管軸線と直交する方向に設けた楔駒片7が、前記押輪1の一直径線A―Aを堺とした一側方の各傾斜突縁2の内側に嵌装され、

(ニ)  その楔駒片7の外側傾斜平坦面4に係着する平坦面9を先端縁に設け、頭部に回動頭部14を有する押ねじ杆8が、前記膨出傾斜突縁2に直交してねじ付けられ、その楔駒片7の外側傾斜平坦面4に、前記押ねじ杆8の先端の平坦面9の全面が押付けられて成る管の逸脱防止装置の構造

(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

別紙図面(二)

<省略>

別紙図面(三)

<省略>

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